三菱東京UFJ銀行が、国債の入札で優遇措置を受けられる「国債市場特別参加者」の資格を国に返上する検討を進めていることが8日、分かった。日銀のマイナス金利政策で、国債を保有し続ければ損失が発生しかねない状況なのに、資格を持ったままだと国から国債を買う義務を伴うからだ。金融機関の国債離れが進めば、将来的に国債の消化を不安定にする懸念もある。
【グラフで分かりやすく】日銀と銀行の国債保有残高の推移
この資格は、財務省がメガバンク3行と証券会社19社に付与。資格保有者は国債の入札について財務省に意見を言ったり、臨時の入札に参加できたりする一方、入札ごとに発行予定額の4%以上を買うことなどが義務づけられる。大量に発行する国債を安定的に売却するため、財務省が2004年に導入した。
三菱東京UFJが資格を返上するのは、マイナス金利導入で国債の金利が低下したからだ。返済期間10年までの国債の金利はマイナスになり、満期まで保有すると逆に利子を払わなければならない。保有している間に金利が上昇(債券価格は下落)すれば損失が発生するため、銀行は国債保有残高を減らす傾向にある。日銀は、金利が1%上がると邦銀が持つ国債など債券の価値が7.5兆円減ると試算する。
現在は、異次元緩和を進める日銀が市場から大量の国債を購入しているため、国から買った国債を日銀に転売して利ざやを稼げる。それでも、マイナス金利政策のもとで価値が下がりかねない国債の応札義務を負うのはリスクだ。三菱東京UFJは「株主の理解が得られない」と考えた。
資格を返上すれば邦銀では初めて。政府内では「行き過ぎた金融緩和に疑問を投げかけたのでは」との見方も広がる。マイナス金利で貸出金利が抑え込まれれば、銀行の収益も圧迫される。持ち株会社・三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は4月の講演で、マイナス金利政策について「個人も企業も効果に懐疑的だ」と批判していた。
ただ、銀行は資金調達の担保などとして一定の国債を手元に残しておく必要があり、三菱東京UFJは「今後も必要に応じて国債は購入する」という。グループ傘下の証券2社は資格を維持し、今のところ他の金融機関に返上の動きはない。現在、10年物国債には発行予定額の3倍程度の応札があり、財務省は「国債の安定消化に影響はない」と判断、「個別の金融機関の経営判断」として資格返上を受け入れる見通しだ。
問題は、日銀が金融緩和の終了に向かって国債の購入量を減らす時に、十分な買い手を確保できるかだ。銀行は国内で発行された国債残高の2割超を保有する主要な引受先。銀行の国債離れが広がって国債の安定発行に支障が出れば、政府は高い金利を付けないと国債を発行できなくなり、金利急騰が景気に打撃を与える可能性もある。【安藤大介、井出晋平】
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